奈良地裁平成22年7月9日判決

認知症の女性(大正15年生まれ)に対する呉服の過量販売の事案において,財産管理能力が減退した以降の取引について公序良俗に反して無効とした。

判決文を引用します。

「前記2,3のとおり,本件売買は,被告C店舗において,L,Jらがその財産の管理能力が痴呆症のため低下している原告に対して,これを知りながら,個人的に親しい友人関係にあるかのように思い込ませ,これを利用し,原告自身の強い希望や必要のない商品を大量に購入させ,その結果原告の老後の生活に充てられるべき流動資産をほとんど使ってしまったものである。このような売買は,その客観的状況において,通常の商取引の範囲を超えるものであり,民法の公序良俗に反するというべきである。購入の具体的場面において,原告が商品を購入するとの態度を示していたとしてもこのことは変わらない。なお,上記には,別紙1の71で保佐人の娘のために購入した色無地も含まれ,平成18年にこれを仕立てるにはPも関与している(証人B)けれども,購入自体につき上記と別異に解すべき理由はない。被告Cの主張するように,消費者保護法制による違法な勧誘方法が同被告においてされていないとしても,私法行為一般に適用されるべき民法90条が適用されなくなるものではない。ただし,上記のような評価ができるのは,原告が高齢であるのみならず,その財産管理の能力において明らかに減退した状態であることを知ることができた平成16年以降の取引についてのみである。それまでの時期においては,被告C店舗において,原告の上記状態を知ることができたと認めることはできないのであり,そのような状態を利用して本件売買に至ったということはできないからである。」