大阪地裁平成24年5月16日判決

 ユーザーがサプライヤーの勧誘を受けてホームページ作成ソフトのリース契約を締結したところ,ホームページが作成されない,又は作成されたが間違いが修正されないうちにサプライヤーが倒産したという事案です。
 ユーザーらは,リース会社に対して既払いリース料の返還,未払いリース料の債務不存在を求めて訴訟を提起しました。
 裁判所は,サプライヤーの倒産による損害について,ユーザーとリース会社どちらが負担すべきか検討し,リース会社の方がより過失が大きいとして,信義誠実の原則(信義則・民法1条2項)により,ユーザーのリース料について債務不存在を認めました。
判決文を引用します。

イ 原告らの責任
 (ア)この点について検討するに,原告らは,真実,本件ソフトを取得し使用する意思はないのに,これをリース物件として掲げた契約申込書に署名押印しているが,小規模事業者である原告らにとって,役務の提供がリース契約の対象にならないとの知識は一般的とはいえず,原告らの立場において,訴外JOAが役務の提供を約すると同時に,支払いの方法として,被告のリース契約を利用するとの説明を受けた場合に,格別の問題を感じなかったとしても不思議ではないから,上述のような経緯で本件各契約を締結したことについて,原告らに特別の過失があったとまではいうことはできない。
   原告らが,自らの利益を図るため,あるいは訴外JOAに利益を得させる目的で,ことさら本件各契約を締結したとすべき事情も認められない。
   (略)
ウ 被告らの責任
 (ア)(略)被告は,訴外JOAと業務協定を締結し,契約手続きの一部を委ねているのであるから,訴外JOAが,役務の提供を行う趣旨で,顧客にリース契約を締結させることを疑わせる事実が存するときには,この点を確認し,不適切なリース契約を締結しないこととする信義則上の義務を,顧客に対し負っているというべきである。
 (イ)(※本件の当てはめ・略)これらを総合すると,本件各契約を扱う被告としては,訴外JOAが,真実は役務の提供を目的としつつ,名目上本件ソフトを対象とするリース契約を利用しようとするものであることを,若干の注意を払えば了解可能であったのに,適切に調査確認せず,本件各契約を含む多数のリース契約を締結したことになるので,信義則上の注意義務違反が認められる。
エ まとめ
  上述のとおり,訴外JOAが原告らに役務の提供を約し,その支払い方法としてリース契約を利用するという齟齬が生じた点について,原告らと被告双方の責任を検討するに,後者が前者を大きく上回っているといわざるを得ない。
      よって,原告らとの関係において,役務を提供すべき相手方は訴外JOAであり,リース料債務の相手方は被告であって,本来,原告らは訴外JOAに対する抗弁をもって被告に対抗することができないが,本件の事実関係を前提とすると,原告らは,役務の提供がないことを理由とする訴外JOAに対する抗弁を,信義則上,被告に対しても主張できると解するのが相当である。